身体の部屋

チャレンジナンバ

2009 年 12 月 2 日 水曜日

矢野龍彦 桐朋学園大学教授

心身技術研究所所長

はじめに

明治以前の日本人の生活を見てみると、本当によく身体を動かして生活をしていた。
お百姓さんは、毎日毎日、田畑で日の出から日の入りまで、機械に頼らずほとんど自分の力だけで農作業を行っていた。それでも身体を痛めたり、苦しくて次の日は寝込んだりということもなかったようである。農作業での動きは、ほとんどナンバ的動きである。他の職業についていた日本人も、身体を使ってよく働いていたし、ナンバ的動きをしていた。
飛脚は、一日に100km~200km以上も走り通したという。これは、現代のマラソンランナーでも走りきることが出来ない距離を、マラソンシューズではなくワラジで走っていたことになる。当然、道路も、整備されない凸凹道である。この飛脚の走りを、現代ではナンバ走りといっている。
そして、武士は着物に草履という、およそ動くのには適していない装いで、刀を振り回し、命をかけて闘うこともあった。この動きも、ナンバである。
こういう着物と草履という制限された中で、効率的に動いていた動きに注目した。そして、これは難しい場面を(難場=ナンバ)、どのように創意工夫して乗り切っていくかというものであろうと解釈した。それを、我々はナンバと捉えて、ナンバを発展させてきた。
我々がいうナンバ的動きとは、着物が着崩れず、草履の鼻緒が切れない動きの中にある。いってみれば、ナンバは日本人の伝統文化である。そして、素早く動け、力も出、効率的で疲れにくい動きでもある。
しかし現在は、明治以降、洋服と靴が西洋より入ってきて、そのうえに西洋式の動きまで入ってきた。それにより、我々日本人が身につけていた「日本人の伝統文化であるナンバの動き」が忘れ去られようとしている。そういうナンバの動きを、現代に蘇らせ現代社会の中で取り入れていこうというのが我々の試みである。

ナンバ歩き

ナンバの動きに関して、歩きで説明したい。「ナンバ歩き」という言葉だけは聞いたことがあると思う。しかし、どのような歩きがナンバ歩きなのかは、知らない人が多い。単に、右脚を前に出すとき、右手も同時に前に出すなどという人もいる。しかし、ちょっと自分で試してみればすぐにわかるが、右手右脚を同時に前に出して歩くと、バランスがとれずギクシャクした歩きかたになってしまう。我々日本人の祖先が、そんなみっともない歩き方をしていたとは思えない。
また、右手右脚を同時に前に出す歩き方の延長線上では。走ることは出来ない。これも試してもらえれば、すぐにわかることである。走ることにつながらない歩きというのは、日常生活の中で考えられない。だから、ナンバ歩きとは、単純に右手右脚を同時に出して歩くというものではない。
着物が着崩れないで、草履の鼻緒を切らないで歩くにはどうすればいいか。それが、ナンバ歩きを解明する鍵である。そうやってナンバ歩きを探していくと、身体をうねらせたり、捻ったりしないという動きでなければならない。そうしないと、着物が着崩れてしまう。そのために、骨盤と胸郭を連動させて動かすのがナンバ歩きである。
また、今の歩き方のように、踵から着地して拇指球で蹴って歩くという、前脚意識の踏ん張り方では草履の鼻緒が切れてしまう。そこで、後ろ脚を前に運ぶことを繰り返すように歩かなければならない。そういう歩き方がナンバ歩きである。ナンバ歩きは、いままでの歩きかたよりも楽に歩くことが出来、特に階段や坂道では効果がてきめんである。
身体の動かしかたとしては、出来るだけ「捻らない」「うねらない」「踏ん張らない」ということがナンバの基本になる。

ナンバの動きの応用。

我々は、出来るだけ「捻らない」「うねらない」「踏ん張らない」動きを探してナンバ的動きとしている。
そして、そういうナンバ的動きをスポーツに応用して、東京のスポーツ推薦などない進学校の桐朋高校が、バスケットボールで夏のインターハイ、冬のウインター・カップに出場し活躍した。また、陸上競技でも、全盲の三段跳びにおいて世界選手権大会で六位に入賞した。現在も、サッカーや様々なスポーツに取り入れようとしている。
音楽の演奏においては、ピアノ、バイオリン、マリンバなど、様々な楽器の演奏時の身体の使い方をナンバ的にして効果を挙げている。
日常生活の様々な動作も、その動きをナンバ的にすることにより、いままでよりもより楽に動くことが出来、より効率的である。

二分脊椎症へのナンバ的試み

我々は、二分脊椎症の子どもたちの機能改善にナンバ的に取り組んでいる。それは、医学的な試みではなく、運動学的な試みである。我々がナンバ的な動きと基本指圧を試みたT君のことは、この夏の第二十六回二分脊椎症研究会で発表した。
T君に歩行改善として、ナンバ式骨体操を中心に取り組んだら、通学に45分掛けて歩いていたものが、30分で歩けるようになった。これは、大きな改善だろうと思われる。また、我々は意図していなかったが、身体のバランスが取れてきたのだろうが自力排便まで出来るようになった。

現在、チャレンジナンバに参加中の薄井教飛(ウスイユキタカ)君

平成20年12月より、友達に誘われてチャレンジナンバに半信半疑で参加。
月に一回ナンバの動きの指導、週に二回基本指圧の指導を受ける。
ナンバの動きは、親子で参加し、どういう動きをするか親がノートを取り、次回まで家で行う。そのときの注意は、頑張れといって子どもに押し付けないこと。痛いところまでは、動かさない。回数や頻度は決めないで、楽しめるところで止める。
指圧は、お母さんが村岡先生に指導を受け、自分の子どもを指圧できるようにする。
そこ結果、11月のチャレンジナンバでは、教飛君が「ぼく、歩けそうな気がする」と驚きの発言をする。指導している我々以上に前向きな発現を聞いた。

この一年近くのチャレンジナンバの経過を教飛君に聞いてみて、コメントしてみました。
「移動手段は、外では車椅子、室内では四つん這いだが腕の力だけで人魚のようだったのが、右脚左脚と交互に動かししっかりした四つん這いになってきた。手と脚の連動が出来るようになり、骨盤がしっかりしてきた。」
これはナンバ式で、骨を意識し全身を連動させて動くことをやってきた結果であろう。
「指圧で疲れにくくなった」
これは指圧により、身体をうまくほぐして、疲れを取って身体の調整をしているためと思われる。
「脚の感覚が芽生えてきて、脚も竹のように細かったが、脚に力を入れられるようになってきた。」
骨盤や胸郭などからだの中心部を動かすことによって、脚など末端の感覚も芽生えてきたと思われる。そして、骨を動かし意識で動かしていた結果、筋肉もついてきたものと思われる。
「足の爪の伸びが速くなり、汗をかけるようになった。」
これは、全身を連動させて動かすことにより、身体の代謝能力が上がってきたためと思われる。
「アトピーが治り、乾燥肌も改善された。」
全身のバランスが取れ、体調自体がよくなった結果、アトピーが治り、肌の調子もよくなったものと思われる。
「反発ばかりしていたのが、穏やかになった。」
自分の身体の状態を諦めて絶望的になっていたのが、希望が持てるようになったためと思われる。精神状態まで改善されている。
「指導してくれる先生方が、大好きだ」
誰が指導しても同じというものではなく、そこに信頼関係、愛情関係がないと何も伝わらないもではないだろうか。
「洗腸も以前は毎日行っていたが、現在は週に一度になった。失禁もなくなった。自力排便をめざします。」
全身のバランスが取れ、内臓の機能も回復しているものと思われる。自力排便の実績もあるので、もう少しすれば可能だと思っている。
以上、現在までの簡単な経過報告です。

ナンバに関する参考文献

「ナンバ式!元気生活」ミシマ社 2008
「ナンバ走りを体得するためのトレーニング」MCプレス 2007
「仕事で遊ぶナンバ術」ミシマ社 2007
「ナンバの心身対話術」MCプレス 2007
「ナンバ式快心術」角川Oneテーマ新書 2005
「ナンバの身体論」光文社新書 2004
「ナンバ式骨体操」光文社 2004
「ナンバ走り」光文社新書 2003

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